エッチな本を僕は買ったことがない

27年間の人生の中で、僕はエロ本を買ったことが無い。

僕は高校を卒業するまでは離島に住んでおり、高校を卒業して島の外に出る頃には携帯電話を手にしていた。

その端末があれば、わざわざ足を運んで、羞恥心と格闘しながらエロ本を買う必要は無い。

家にいながら僕達は自分の好むエロを密かに楽しむ事が出来た。


島を出て、一時期大阪にいたのだが、

親しくしていた同い年の友人が、コンビニで一冊のエロ本を手に取ると、単品でレジに持って行った。

お菓子やジュース等をお供にし、カモフラージュになっていないカモフラージュもせずの、エロ本単騎。


「すごい」


しかもレジの女の子は当時の僕らと同い年くらいの若い子だった。

更にそいつは会計中ずっとその女の子に話しかけているのだ。

僕は愕然とした。

会話の内容は聞き取れないが、女の子のどぎまぎした表情から察するに、何か卑猥な事を言っているに違いない。

その光景は公然わいせつ以外の何物でも無かった。


「この人痴漢です!」


と女の子が今にも叫ぶんじゃないかと気が気ではなかった。

会計を終えると、そいつは嬉々とした表情で僕を呼んだ、二人で店の外に出る。

振り返ると、レジの女の子は赤面して、乱れてもいない髪を何度も直していた。


「これ、やるわ」


そいつはエロ本の中身を一瞥もせず、袋ごと僕に投げてよこした。


「え、読まんの?」


「うん、さっきレジで会計してた瞬間が一番楽しかった、ああいうのが良いんだよね!だから、俺にとってのエロ本の役目はもう終わり」


当時の季節は夏、大阪に降り注ぐ日差しは牙みたいに鋭かった。

噛み殺されそうな日差しの中のそいつの笑顔を今でも忘れない。

あんなに爽やかな笑顔を、僕は見た事が無かった。