言葉を届ける 難

物凄い向かい風の中、僕は前を歩く友人に

「風すげえな!」

と言った。

しかし、僕の細い声は風に跳ね返されてしまい、友人の耳たぶにしがみつく所までも行かなかった。

それならばと足を早め、友人の前に位置取り振り返って、風を背に受けながら

「風すげえな!」

と叫んだ、僕の細い声は風に乗って弾丸のように走った。

友人の眉間に直撃したそれは皮膚を破り頭蓋を割って貫通した後、風下の彼方へ消えた。

友人は倒れ、黙ってしまった。


言葉を人に届けるということは難しい。

風の強い日は尚更だ。