ウォーキングデッドモスキート

夕暮れ時、太陽が傾いて涼しくなる頃に、僕は散歩しに外に出る。
昼間熱せられた世界が徐々に冷えていく中を歩くのが好きだ。
ある一点を除いて。

ぷーん

頭の後ろで、甲高い羽音が聞こえた。
来た。蚊だ。
後ろ手に払うと、その音は遠くに消えた。
しかし、いっときするとまた飛んでくる。
手で払えば食われることは滅多に無いのだが、定期的に飛んでくる蚊は鬱陶しいことこの上ない。

ぷーん

また来た。
手で払う。

「いてっ」

妙にしっかりとした手応えの後に聞こえた、男の野太い声。

え?

振り向いたが、誰もいない。
何か冷たいものが、僕の背中を伝った。
自分の体が、世界が冷却される速度を優に追い越して、冷えていくのを感じた。

しばらくその場から動けなかった。

首筋がかゆい。

どうやら、蚊に食われた様だ。